絵を描くように、植物たちをデザインする。ナチュラルな上野ファームについて



4月下旬、いよいよ旭川が誇る上野ファームがオープンした。全国のガーデナーの憧れの地で、このゴールデンウイークもさっそく賑わっている。連休中は2回、ヘッドガーデナーの上野砂由紀さんが案内するガーデンウオークもあって、すごい人気だった。

この時期に咲いている花は、まだまだ少ない。特に今年は雪解けが遅かったことも影響してるんだとか。最盛期ではないからそりゃそうなんだけど、けっして背伸びせず、それぞれの季節ならではの見せ方をしている表れでもある。

5月4日のガーデンウオークには50人超が参加。上野さんは冒頭「この時期のガーデンを知ると、もっと咲いた時の感動が大きくなります。100倍楽しめますよ」と切り出した。

ガーデン内は植物の名前が書かれたラベルがない。来園者からは表示を求める声もあるけれど、「自然な雰囲気で楽しめるようにしたいので」とあえて対応していないんだとか。だからこそ、上野さんから直に聞ける機会はまたとないチャンス。いつもより100倍耳の穴を大きくして、ゆっくり歩いた。


左右対称に植えている「ミラーボーダー」のエリアでは、チューリップが開花を待っていた。ここの球根類は植えっぱなしで、掘り上げることはしない。花が終わったら周りのほかの植物が伸びて、自然とバトンタッチするようにしているんだとか。

前後左右に植えることで開花期を調整し、6月~9月に「なんかしらが咲いている」状態をつくりだしている。「調整して、結果が出るのが一年後。それを繰り返していきます。気の長い作業ですが、うまくいくと嬉しいですね」と上野さん。

気軽にできるガーデニングのコツも教えてくれた。同じチューリップでも早咲き、中間咲き、晩成咲きの3種類を組み合わせることで、色が変わって長く楽しめるガーデンがつくれるという。

来園者が小人(こびと)になった気分で楽しむ「ノームの庭」でも、季節ごとに見せ場を変えている。チューリップが終わる頃には、アリウムが存在感を増すように演出。通路に近いところには常緑の植物を置き、花が終わっても楽しめるよう計算している。



「毎年同じ庭はありません。雨や気温で高さ(丈)も変わる。デザインは生きているので、日々変わるのがガーデニングの一番の面白さですね。絵を描くようなガーデニングです」

1時間のガーデンウオークも終盤。かつて屯田兵が訓練をした「射的山」のふもとでは、上野さんはクリスマスローズとルピナスを紹介した。「本州なら、クリスマスローズは日の当たるところはNG。でもここならどんどん大きくなります。植物は暑くなるとエネルギーをつかうので、それほど大きくならないんですが、北国では本州の2倍くらいになるのもあります。ここの植物を関東に持っていっても、3分の1くらいは枯れるはず。北海道だからこそのガーデンがつくれるということを知っていただきたいです」とまとめた。「北海道ガーデン」という言葉が、これまでで一番しっくりきた。

季節に逆らわず、花の組み合わせをイメージして長く楽しむって新鮮。上野ファームでやっていることを、普段の暮らしにも取り入れることができそうだし。草花の織り成す景色は春から夏、秋にかけての季節の変化だけでなく、1週間単位でめまぐるしく変わっていくというのも、生き物らしくて楽しい。農家の上野家が、お客さんをもてなすために始めたプライベートガーデンだからこその、自然体の魅力も大きいんだろうなーと思う。

暇さえあれば、季節ごとのグラデーションを見にいこう。準備するのはカメラと年間パスポートだけでいい。