生まれてはじめて、小田急のロマンスカーに乗った。
学生時代に東京(横浜)に4年間いたのに、箱根方面にいくときはいつも、運転の練習という名目でレンタカーだった。いつでも乗れるだろうと思っていたら、一度も乗らないまま就職してしまった。
小田原駅から乗り込んだのは2005年登場の真っ白な「VSE」こと50000系。
お披露目された当時、「なんじゃこりゃ」とドン引きしたのを覚えている。
新興宗教っぽい、出っ歯まエイリアンっぽい、鉄仮面みたい。そんな違和感があった。台車や床下部分がカウルされて、ホバークラフトの上に白亜の城が無理やり乗っかったような出で立ちで、あきらかに浮くだろうと思った。今でも岡部憲明さんのデザインはあんまり好きじゃない。
でも小田原駅でホームに滑り込む、上の写真のような角度から実物を見たら、あれ、かっこいいじゃないですか。
なにより、その存在感は圧倒的だった。同じ私鉄の有料特急でも、西武や京成、近鉄や南海なんかとはまるっきり違う。同じく展望車が自慢の名鉄のそれと比べても、別次元に映った。
車内からも観察してみる。展望車両の大きすぎる窓は、さながら超巨大なプロジェクターだった。窓枠(ピラー)のない開放感はすごい。外の景色という映像をあふれんばかりに各席に届け、トンネルに入ればプラネタリウムのようなワクワク感を演出してくれる。
登場からゆうに10年を超えているのに、まだまだ車内外から視線を集めていた。JR西日本の500系新幹線みたいな感じに。おじいちゃん、おばあちゃん、お母さんと一緒に乗り込んだ3歳くらいの男の子は「たまらん」という顔を浮かべていた。
シートはお世辞にも座り心地が良いわけでもなく、特段快適な設備があるわけでもない。でも、「ロマンスカーに乗っている」、という特別感は確かにあった。
箱根といえば温泉、湖、山とすぐイメージがわく。映像と結びつく。
ロマンスカーは、誰もが共有している箱根のブランド力に直結するんだろうし、「ロマンスカーに乗る」という体験そのものが、手に届く非日常の観光資源になっている気がする。1957年から脈々と走り続けてきたロマンスカーの強さなんだろう。